自然のおきて(9)
「君と会ってからね、難しいことばで言うと、僕は絵の開眼をしたんだ。日展に出すと、必ず入選するし、特選にもなるんだよ。」
いまでは、宮本さんは人気画家で、テレビに出たり個展を開くそうです。
「ところで束君。今日、僕は君とのやくそくをはたすために来たんだ。受けてくれるね?」
といって、車の中から1平方メートルくらいの平たい紙包みを持ってきました。
「ひらいてごらん。」
と宮本さんは言いました。束はそっと紙包みを拡げてみました。やっぱり絵でした。
月空に、少年と少女が赤い郵便箱に乗っています。背景のシルエットは、あの北欧の雪の町。
「こ、こりゃあすごいものをもらったねえ。」
後ろで感嘆する声にびっくりして、振り返ってみると、おらがさんが立っていました。
「束君、この宮本先生の絵はね、わしらがいくらほしくてもなかなか手に入らないんだよ。もらって大事にしておきなさい。」
と、とてもうらやましそうに言いました。そして、いつもいばりやのおらがさんが、宮本画伯には先生、先生といって、頭をぺこぺこ下げているのが、とてもおかしいのでした。でも宮本画伯は、かえって迷惑そうです。