自然のおきて(10)
「ところでね、僕たちが友達の約束をしたバス駅に入ってみようじゃないか。」
宮本画伯が言いました。
山の中腹には、お茶の木が列のように植えてあって、いま、しきりに葉を摘んでいます。
「夏も近づく八十八夜か。じき夏休みだね。」
と画伯は楽しそうに歩いて行きます。
「僕はこの夏、勉強がてら旅行するんだ。」
「どこへ?」
「北欧さ!」
バス駅に近づくと、見慣れないトラックが止まっていて、いつもと様子が違います。スコップを持った4,5人の人が働いています。束は不安になって走り出しました。
「あっ、郵便箱がない!」
と叫びました。あの掲示板の下に、むなしく白い四角なあとが残っているだけです。
「もしもし、ここにかかっていた赤い郵便箱は、どうなったんですか?」
宮本画伯がきくと、ひとりが答えました。
「見れば、束の背より高いポストが通せんぼするように、道端にでんと立っています。
「いままであった郵便箱さんは、どこに行ったの?」
「郵便箱さんだって?さあ知りませんね。」
その人は、めんどくさそうに答えました。宮本画伯は思わず束の顔を見ました。今にも泣きそうです。少し開いた口から、宮本さんだけに聞こえる小さな声がしました。
「赤い郵便箱さん。今度こそ本当にさよならね・・・・。」
といっています。