自然のおきて(8)
束はあきらめて家に帰りました。その夜、お母さんが束の寝ている部屋をみにいったとき、束はほおに涙をぼろぼろ流しながら、ふとんをかむっていました。
でも、お母さんが心配したこともなく、翌朝になると元気よく起きて、ご飯のお代わりを何杯もして安心させました。
もう初夏になって、若葉の美しい季節です。
束は、むかしのように、ひとりぼっちでいることもなく、友達と仲良く、勉強したり遊んだりしていました。束は学級委員でしたが、少しもえらそうな顔をしません。とてもみんなに人気がありました。
今日も元気よく帰ってくると、家の前に立派な車がとまっているのがみえます。束は胸がどきどきして駆け出してゆきました。足音が聞こえたのでしょう。お母さんがすぐ出てきました。
「束さん、お帰り。宮本さんが来てるよ!」
家の中から、立派な紳士が出てきました。やっぱりベレー帽をかぶっています。
「あ、宮本のおじさん!」
束は飛びつきました。
「やあ、大きくなったねえ。」
と宮本画伯は、思わず声を詰まらせながら、しっかりと肩を抱きました。