自然のおきて(3)
毎年、夏になると幾組かのキャンパーたちが、リュックを背負って霧の立ち込める山頂目指してゆきました。でも、でも。この黒岩岳は、少年たちだけで登ると神の怒りに触れると言い伝えられます。それは、この美しい山が、入ってみると意外に樹海は深く、天候が急変しやすい危険があるからです。
きっと、昔の人は危険を防ぐため、戒めとしていったことばかもしれません。
すぐ村の若い人が、捜査隊に選ばれました。
おとうさんは、何度もこの山に登り、一番よく知っていたので、束の家は捜査本部になり、村の人たちが集まってきました。
そのころ、束は村はずれのバス駅の方に息を切らせて走っていきました。
「郵便箱のおじさあん!山へ登った少年たちのいるところさがしておくれよ!」
だが、今日に限って返事がありません。
「どうしたの!おじさん、わからないの?」
束は郵便箱を揺さぶりました。
「うん、わかっているさ。朝から何度もあおあらしがいってきたよ。黒岩だけの北側に天狗の鼻とよぶでっぱりがある。その下のくぼみに少年たちは集まって、負傷した子を介抱しているのを見たというんだ。明日はお山が荒れるらしい。早くみんなに知らせてやんなよ。」
「うん、わかった。ありがとう!」
あとも見ずに、駆け出した束を、郵便箱のおじさんは、なぜかしょんぼり見送りました。