母リスと子リス(8)

まもなく束はすやすやと、安らかないびきをかいて寝ていました。おかあさんには、きょうは、アケビの実を夢中で採っているうちに、道を間違えて遅くなったといっておいたのです。

―――きらきら光る湖に、一本のヤマモモの木が伸びています。どこかで見たような景色だな、と思いました。と、そのヤマモモの木のほら穴から、ひょこんと子リスが顔を出しました。ヨチヨチと上に上っていきます。

あぶないあぶない。だんだん小枝の方へ移っていくではありませんか。束が思わず体をかたくしたとき、どぶん!と大きな音を立てて、子リスは湖の中に落ちました。

湖に写っていた月が散って、こがねの水輪がひろがりました。

水音を聞いて、母リスは飛び出してきました。木をかけおりると、子リスのおぼれている岸辺をうろうろと走り回りました。

「おかあちゃあん、たすけてよう!」

「まっておいで、今助けてあげるからね。」

母リスは、気違いのように駆け回り、何度か湖に飛び込もうとしました。

でも泳ぎを知らない母リスは、助けるどころか、二人ともおぼれてしまうでしょう。

とうとう母リスは決心したように、湖の中に尾を入れて水を吸わせました。そして、すぐ土手をかけおりると、手で尾をしごいて水を切り、また駆け上がって湖につけました。何度も同じことを繰り返し、少しでも湖の水を減らそうとしたのです。どれだけへるでしょう。それでも必死にすくおうとします。

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