母リスと子リス(7)
秋の日はつるべ落としといいます。特に山では、暗くなるとあっという間に夜がやってくるのです。
束は、急に怖くなってきました。持ってきたかすみ網を、ほら穴の上につっかいぼうして、テントのようにかぶせました。これなら、夜になって出てきたリスが、しっぽか足を取り持ちにとられてもがくうちに、すっぽり網の中にはいってしまうでしょう。
おや、いつの間にか夜になっています。さあたいへん。
くるときは、そんなに時間のかからなかった道も、真っ暗の中では少しもはかどりません。
ばたばたっ。急に大きな音がしました。たぶん人の気配に驚いて、ねぐらから飛び出した鳥でしょうか。がさがさ、ぼきぼき、これは木立の闇を走るけものの音らしい。
束は、おじいさんがきつねに化かされると、ひとつところを何度もぐるぐる回って帰れない、といったことを思い出して、後ろをそっと振り返ってみました。黒い木立が大男のように見えます。
そうだ、コマーシャルソングでも歌おう。
「子豚のコロちゃん
コロコロと転げて
お菓子を追いかけた・・・。」
ある製菓会社のチョコレートの歌です。少し怖さを忘れました。でもなんと長いくらい道でしょう。
やっと村の灯が見えたとき、急に怖さが一杯になり、何か叫びながら、手を前に突き出し、夢中で走り出しました。
家では戸があけてあって、お母さんが心配そうに、あたりを見回しているところでした。束は何か叫びながら、飛びつきました。