港まつり(3)
待ちに待った日が来ました。
トラックがギューンとブレーキの尾を建てて家の前で止まりました。
「やあ、ごくろうさま。お願いします。」
と、おとうさんは、もう4,5日前からつくりためた、こんやくの木箱をトラックに載せました。
箱の内側にはブリキをはって、水がもれないようになっています。
「じゃあ、行ってくるでな。家を頼んだよ。」
と、おとうさんがいうと、おかあさんは、ちょっとさびしそうにうなずきました。トラックは鈍い音を立てて走り出しました。
束は、お父さんと二人、トラックの上で揺れていました。トラックは絶えずカタカタ音を立てて、ぐんぐん飛ばして行きます。木や家や電柱はたちまち後ろへ遠ざかります。ときどき、道の悪い所にきてガタンとおおきくゆれると、束もお父さんもあわてて、こんにゃくの箱を押さえました。
トラックは長い間、走りました。それは今まで束が経験したことのない遠さです。やがてアスファルトの美しい道になりました。
「いよいよ町へ入るぞ。」
お父さんは言いました。家数もにわかに多くなり、道行く人もにぎやかです。
表通りらしい美しい店のならんだとおりを抜けて、小さな家並みの所にきたとき、お父さんはトラックを止めてもらいました。
束は、お父さんに手伝って、婚約の箱をずんぶとラックからおろしました。
そこは商人宿と書いた木の看板が、風に揺れているあまり大きくない店の前でした。