こんにゃくの歌 その3
応急手当だけはしてありましたが、一時は大変な血が出たそうです。
一軒しかない隣村の医者が、自転車で駆けつけてきました。医者は上に上がると、急いで脈を取ってみました。
さいわい、おとうさんのけがは、思ったより軽くてすみました。足の骨折も、かたわになることはあるまい、と医者は保障してくれました。でも、もう山の仕事は出来ないので、どうしても、こんにゃくを作る仕事に精を出さなければなりませんが、お母さんの顔は日ごとに暗くなっていきました。
束は、お父さんの枕元で、お母さんが顔をくっつけるようにして、話をしているのを聞きました。
「おとうさん、からだがよくなったら、ぼつぼつこんにゃくをつくりはじめるかねえ」
「だがな、わしはもう配達は無理だよ」
「そりゃね、お父さんが家に居て、こんにゃくを作る方をしてくれれば、配達くらいは私がするわ」
「・・・・すまんな、だがそうするより仕方ないだろう」
おとうさんは、浮かない顔をして答えました。でも、せっかくお母さんがやる気になっているのです。わざと明るい顔をしました。