こんにゃくの歌 その1
あれから、もういく年かたちました。束は小学生です。毎日元気よく学校へ通っていました。友達の居る学校は大好きで、成績も良いのですが、中でも詩や作文が得意でした。
自分で何か感動したことがあると、すぐ帳面などに書いておいて、作文の時間に詩にまとめたりしました。
今日も作文の時間に、一心に何か書いています。ちょっとのぞいてみましょう。題には『郵便箱の顔』としてあります。
郵便箱には顔がある
春はのんびり楽しそう つばめとなにか 話しているのかな
夏は わあ暑くてたまらんと ぷりぷり怒った顔みたい
秋はこわいおとうさん 顔をきびしくひきしめる
冬の顔はちぢかんで おおさむこさむの雪の道
歯をくいしばって立っている
おや聞こえるぞ 谷の音 風の音
もしかしたらそれは郵便箱のひとり言かもしれない
束は書き上げてにこりとしました。
束は学校が終わると、走るように家へ帰ります。もうすぐに冬です。束は冬が大好きでした。お山に雪が積もって仕事が出来なくなると、お父さんが帰ってくるからです。
夏から秋にかけて、お父さんは雇われて山に入っていきます。幾日も家に帰ってきません。大木の下枝を伐採したり、植林したり、木を切り出す仕事をしていました。
お母さんもその間、近所のお百姓さんの家に手伝いに行っているのです。だから束は、田舎によくあるかぎっ子でした。