ベレー帽のおじさん その8
「おはよう」「こんにちは」「さようなら」と、束はいつも一人で挨拶をします。そして郵便箱がものを言ってくれるといいな、と考えてみました。
それからしばらくたったある日、待ちに待った宮本さんから手紙がきました。束は飛びつくように開いてみました。
「親愛なる束君よ、お元気?ぼくは今アトリエで新しい絵の仕事にかかっています。さて、今日詩をひとつ作った。紹介しよう。題して楽しいこと。
いくら起こった顔をしようと思っても
ひとりでにかおのひもが緩んでしまう。
そんなうれしいことは、めったにない!
ぼくに素敵なお嫁さんが来てくれるとか!
百万円の宝くじが当たったとか
ぼくの絵が特選になったとき
だけどさ、ぼくはそんなに欲張らないよ。
おいしいごちそう、腹いっぱい食べ、君と話した日を思い出して、絵を描いているとき、ぼくは楽しさでいっぱいだ。」
そしてこのあとに、君も手紙をください。さようなら。と書いてありました。
束はこの詩の様に、とても楽しくなりました。そして、食いしん坊の画家のおじさんに、さっそく返事を書きました。
あとで、沿いの手紙をあの赤い郵便箱の口に入れるとき、ポンとたたいて言いました。
「郵便箱のおじさん、頼んだよ」