ベレー帽のおじさん その7
ニコニコと一人うれしそうに笑っている束を見ると、ベレー帽のおじさんもしかた無さそうに笑い出しました。
「実はねえ、ぼくがお酒を飲んで大声で歌を歌うと、友達はミスター郵便箱とひやかすんだ。やっぱり似てるらしいな」
と、束のことばをみとめたようにいいました。
「じゃあ、画家のおじさんと、郵便箱のおじさんとぼくたち三人はお友達だね」
「そうだとも!」
ベレー帽のおじさんは、小指を出すと、しっかり束の小指に絡ませました。
「さこれで、三人が友達になった約束をしたよ」
といって、愉快そうに笑いました。その声は、近くのがけ山に当たって跳ね返ってきました。それはやまのこだまだったのでしょうか?それとも郵便箱のおじさんの声だったのかもしれません。
画家のおじさんは、キャンバスに向かって、気を静めるように目をつむり、やがて筆を取ると、郵便箱をいっきに書きました。
それは束の目にもすばらしい絵に見えました。ここに赤い郵便箱を入れたことによって、いっそう秋の田舎らしい落ち着きが出てきました。
「さて、秋の展覧会に出す絵も出来あがったから、帰るけど、ぼくは草深い山里に結ばれた君との友情は、決して忘れないよ」
と言って、名刺を出しました。宮本太郎、これがベレー帽のおじさんの名でした。
やがて宮本さんは、駅から乗ったバスの窓から手を振りつつ、遠ざかってゆきました。
せっかく友達になった宮本さんが行ってしまって、束はがっかり。一緒に遊ぶ仲間も無いので、よくバス駅の郵便箱のところに行きました。