ベレー帽のおじさん その6
それからは郵便やさんが来て、時折この赤い郵便箱から手紙を取り出すところを見ましたが、束は自分の家の手紙だけは、月夜に郵便箱のおじさんが届けてくれるものと信じていました。
束はこの友達の郵便箱の話を、ベレー帽のおじさんに聞かせました。おじさんは絵を描くことも忘れたように、はるか下の方に広がりゆく山間の村を眺めながら、熱心にきいてくれました。
「僕の話はこれでおしまい」
束は顔を赤くして、額から汗を出しています。きっと話しに熱が入ったのでしょう。
「ううん。いい話だねえ・・・・。ぼくは感激したよ」
画家のおじさんは、がっしりした手を束の肩に置いていいました。
「あのね。ぼくはまだ名も無い青年画家だけれど、一心に勉強して、有名になって見せるよ。そのときはきっと、今日の話を絵に書いて、かわいい友の君に送る約束をしよう」
ベレー帽のおじさんは、束の手を握っていくどもふりました。
ああうれしいな。ぼくの友達になってくれるなんて!と思ったとき、束はあるすばらしい発見をして、胸がどきどきしてきました。
「ねっ、おじさんの顔、郵便箱に似てるね」
「なんだってえ?」
ベレー帽のおじさんは、思わず目をぱちくり。そうです、この四角い赤ら顔、前にずり落ちそうなベレー帽、確かに似ています。気のせいではありません。