ベレー帽のおじさん その5
この郵便箱は、もうだいぶ赤ペンキがはげて、薄くなったり黒いしみが出ていたりして、なんだかおじいちゃんの顔みたいです。
束は次の日、早く起きるとバケツと雑巾を持って、バス駅に行きました。小川から水を汲んで郵便箱を丁寧に拭きました。
まもなく郵便屋のおじさんがきました。束を見るとにこにこして、
「おや?きのうおもしろい話をしてくれた坊やだね。何か用?」
「うん、あのね、僕お願いがあるんだけれど」
と、口ごもりながら言いました。
「さてなんだろうな?僕に、郵便箱の代わりに空を飛んでくれといっても、だめだよ」
「ううん違うよ!この郵便箱ね、長い間仕事をしてきたんで、つかれて、よごれてるんだろ。いっぺんきれいにしてくれないかなあ」
「そうか、いいとも、お安い御用。すぐ係りの人に言っておくよ」
郵便やのおじさんはそう約束してくれました。
四、五日たってペンキやさんがきました。赤いペンキを塗り替えると、郵便箱はもうもとの老人くさい顔ではなく、青年のようにしゃんと若返ってしまいました。
「よかったね、郵便箱さん。またこれからは手紙を持って、月夜を飛んでいくんだね!」
というと、郵便箱はうれしそうに見えました。
遊び相手のいない束には、その日から赤い郵便箱を友達と決めました。
さびしくなるとここへ来て、ひとり言をいっては、しきりに話しかけていました。そのときの束はとてもたのしそうでした。