自然のおきて(11)

「ところでね、僕たちが友達の約束をしたバス駅に入ってみようじゃないか。」

宮本画伯が言いました。

山の中腹には、お茶の木が列のように植えてあって、いま、しきりに葉を摘んでいます。

「夏も近づく八十八夜か。じき夏休みだね。」

と画伯は楽しそうに歩いて行きます。

「僕はこの夏、勉強がてら旅行するんだ。」

「どこへ?」

「北欧さ!」

バス駅に近づくと、見慣れないトラックが止まっていて、いつもと様子が違います。スコップを持った4,5人の人が働いています。束は不安になって走り出しました。

「あっ、郵便箱がない!」

と叫びました。あの掲示板の下に、むなしく白い四角なあとが残っているだけです。

「もしもし、ここにかかっていた赤い郵便箱は、どうなったんですか?」

宮本画伯がきくと、ひとりが答えました。

「見れば、束の背より高いポストが通せんぼするように、道端にでんと立っています。

「いままであった郵便箱さんは、どこに行ったの?」

「郵便箱さんだって?さあ知りませんね。」

その人は、めんどくさそうに答えました。宮本画伯は思わず束の顔を見ました。今にも泣きそうです。少し開いた口から、宮本さんだけに聞こえる小さな声がしました。

「赤い郵便箱さん。今度こそ本当にさよならね・・・・。」

といっています。

 

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