母リスと子リス(1)

自動車は学校のわき道から、4,5メートル下の田んぼの中に、前輪を突っ込むようにして、まだエンジンは音を立てています。さいわい、けがをしなかったらしい運転手は、道の上で、さも困ったように、頭を抱えてました。

「そうだよ、早くもって行かなきゃならん品もんでね。朝暗いうちから飛ばしてきたんで、つい居眠りしたらしい。」

運転手のおじさんは、頭をかきました。

お父さんと同じくらいの年の人です。

「積んでいる薬はね、遠い町に悪い病気がすごくはやってるんで、そこの子供たちを救うために、少しでも早く届けてやら無いと、大変なことになるんだよ。」

おじさんは、いらいらしていいました。

「町のクレーン車を呼んで、出してもらうといいよ。学校で電話を借りて。」

束は、前にクレーン車が、落ちたトラックを引き上げている所を見たことがあります。

その会社の名前も覚えてました。

「これはいいことを教えてくれたね。君もいっしょにいって、先生に頼んでおくれよ。」

ふたりは、学校に走りました。ちょうど、宿直の春山先生が見えたので、ことわって、すぐ電話機を取りました。

登校してきた生徒や先生は、車の落ちた道端に黒山のように集まって、ものめずらしげに見ています。

まもなく授業が始まって二時間目の放課のとき、もう黄色いクレーン車が二台来て、腹へ響く音を立てて引き上げにかかっています。みんながやがやと見ています。

先生も生徒も、東側の校庭に集まって、熱心に見守りました。

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