こんにゃくの歌 その7
束は、耳を疑いました。あれは、空耳だったのでしょうか。それとも、風か野花のささやきだったのかもしれません。
「あははは、束君、ないをきょろきょろさがしているんだい?そら、君が今もたれている友達の郵便箱さ!」
「あっ、おじさんかあ。」
束は、やっと気づきました。でも、不思議に思えないのです。
もしかしたら、もっと前から、あいさつをしたような気さえします。
「ほんとうに、しらたきの作り方知っているの。」
「ちえっ、うたがってるのかい。」
「じゃ教えてよ。お父さんは、悲しんで、もう、仕事やめようかというんだもん。」
束の顔は、急に明るくなって言いました。
「よく聞きなよ。まず原料は、石灰の水を少なくして、こんにゃくいもを多く使うのだ。次にげんりょうのこんにゃくがかたまりかかったとき、細い練りだし機の目から押し出す。それで糸のようになって出てきたのを、そのまますぐに熱湯に通すのだ。これがコツだよ。」
「そうか、わかった、ありがとう。」
「あ、束君、ちょっと待って!」
郵便箱のおじさんが、まだ何か言おうとした時には、もう束は家のほうを向いて、後も見ずに駆け出していました。
家では、おとうさんとおかあさんが、売れないでいっぱいたまった、こんにゃくの水槽の前で暗い顔して立っていました。