ベレー帽のおじさん その1
その赤い郵便箱は、村はずれにありました。
1日に四回しかこないバス駅の、掲示板の下に、いつも、ひっそりとかかっていました。
でも村の人たちは、たった一つしかないこの郵便箱に、とても感謝しています。
だって、家の吹っとんでしまいそうな風の強い日でも、雪の強い日でも、郵便箱に手紙を入れると、ちゃんと向こうへ届けてくれます。
もう、この赤い郵便箱は、何年も何十年も、バス駅にかけられていました。
この赤いペンキぬりの鉄の郵便箱は、たてが六十センチ、よこが三十センチで厚さが約二十五センチあり、上には小さな屋根がのっかっていて、その下に手紙やはがきを入れる、ふたのついた口があります。
たぶん束(つかね)が四つか五つのときだったのでしょう。
もう、すっかり秋が深くなって、山々を木が燃えるようにいろどり、空は高く青く澄んでいるころでした。ある日、村に見知らぬ若い画家がやってきました。
道ばたに大きなキャンバスを立てて、ベレー帽をかぶったこの若いおじさんは、あたりの景色をか
きはじめました。そしてそれから毎日きて、熱心に筆を動かしています。
束は画家を見るのははじめてでした。
物めずらしそうに後ろにいって、あかずに絵に見入っていました。
「坊や、よく見にくるね。絵はすき?」
と、ベレー帽のおじさんは気軽にききました。きっと束が熱心に見ていたからでしょう。
「うん!ぼく、とっても好き!」